高湿度による眩暈の症例です。
患者:20代男性
主訴:眩暈、吐き気
増悪因子:頭を動かすと眩暈(視界の回転が速く大きくなる)と吐き気が悪化する。
緩解因子:眩暈と吐き気は嘔吐するたびに少しずつ緩解する。
不変因子:眩暈と吐き気は安静にしていても緩解しない。
◆主訴発症時の状況
主訴発症の当日は、一日中雨が降っていた。出勤時の夜には雨が止んでいたが湿度90%を超える高湿度の状態であった。
職場環境は屋根のある屋外。工場勤務(勤続半年未満)で防毒マスクを着用して作業をしているので呼吸がしづらい。マスクの内側は結露して水滴が溜まる。
作業開始から1時間ほどして眩暈(回転性)が出現し、頭のふらつきが出現する。徐々に眩暈が強くなり、足元がふらついて立っていられなくなる。作業を中断して横になるが、吐き気が強くなってきて数回嘔吐した。嘔吐するごとに眩暈と吐き気が少しずつ緩解するが、頭を動かすと眩暈と吐き気が悪化する。眩暈と吐き気が強くなると息苦しさも出現する。
◆その他情報
今まで雨天や高湿度の影響で体調を崩したことはない。
作業は機械を使用するので、ミスをしないように集中している状態が続く。
主訴発症2時間前に満腹まで食事をした。
普段の食生活に偏りなし。
幼少期から瘦せ型で食べても太らない。
主訴発症後から食欲がない。
主訴発症後から喉の渇きがなく、一口しか飲めない。
嘔吐後に口苦が出現。
飲酒・喫煙はしない。
運動習慣が少ない。
1年に1~2回風邪をひいて、高熱で寝込むことがある。
20代前半の頃に自然気胸(左肺・中等度)の既往あり。
痰がよく絡む
大きな怪我の既往はなし。
◆診断治療
仕事で集中状態による緊張から肝の疏泄が失調し、肝胆の左右差と気逆(気が上に偏っている)状態であった。
さらに防毒マスクの着用によって呼気で体外へ内湿(体内にある余分な水分や飲食物に含まれる過剰な水分)を排出できず、高湿度による外湿(雨天時や梅雨時期に外気中に多くなる湿気)の影響を受けて体内に内外湿邪が蓄積したことで、脾の運化が障害されて水湿が停滞して痰が生じ、痰濁が中焦を阻滞したために清陽が昇らず、胃の降濁作用が障害されて濁陰が降らず、眩暈と嘔吐が生じた「肝胆の左右差」+「痰濁中阻(たんだくちゅうそ)」と診立てました。
発症当日の夜に治療を開始。
肝胆の左右差を整えて気を巡らせ、治療を行いました。治療の途中から眩暈と吐き気はほぼなくなりましたが、念のため翌朝も続けて治療を行いました。
2回の治療で症状が落ち着き、食欲も昼頃に普段通りに戻ったので発症翌日に通常通り出勤されました。
作業による集中状態により気が上に偏りやすく、さらに運動不足で気の巡りが滞って肝胆の左右差があり、脾と肺に弱りがある状態の中で、高湿度の環境と呼吸による内湿の排出ができず、体内に余分な水分が溜まり過ぎてしまったことで発症した眩暈と嘔吐でした。
主訴発症の2日後に左目の異物感で治療を行いましたが、眩暈と嘔吐は一切出ていませんでした。左目の異物感も治療して半日で消失しました。
◆脾と肺は水分の調節をする
脾と肺には、それぞれ体の水分を調節する働きがあります。脾の「運化(うんか)」作用と肺の「通調水道(つうちょうすいどう)」作用といいます。
脾の機能が低下すると、水分を適切に吸収・運搬できず、体内に余分な水分が溜まりやすくなります。これがむくみや痰湿(体内の余分な水分が停滞した状態)の原因となります。
肺の機能が低下すると、全身への水分散布や排泄がうまくいかず、呼吸器系の不調につながることがあります。
雨天の日や梅雨時期は湿度が高く、特に外で仕事をされる方は普段からの養生も重要です。
セルフケアの養生が不足していても、鍼灸で気血水を巡らせて湿邪による不調を予防することができます。
コメント